日本書票協会 西日本支部長をつとめられている、佐々木康之さんの新作し書票ができあがりました。
佐々木さんとのお付き合いは、おそらくもう、15年以上のお付き合いだ。
私が刊行し続けている。『イマジオ&ポエティカ』の創刊号からの購読者だった。
今回の佐々木さんからの書票のテーマは少々困難なものだった。
台湾の南部、台南市の古城ツーカンロウと台湾の英雄、鄭成功の肖像だ。しかも、鄭成功は白馬にまたがっている場面ということだった。
佐々木さんから書票のご注文を依頼されたのは2年ぐらい前のことだ。
資料集めに約、2年近くかかった。台南へは行ったことがある。三年ぐらい前、台南大学で木口木版画の実技指導のために訪れた。そのときの画像は、ブログにも載せている。
人物の版画を作るときは、顔から彫る。顔が失敗したら、その時点で再び彫りなおす。
票主の名前と指定された文字も早めに彫っておく。これらが失敗したら、他の部分が、どんなにうまくできたとしても、それは失敗となってしまうからだ。
背景は、台南特有の情景を連想しながら彫り進めていく。
明るい南国、しかも台南市は熱帯。
熱帯の植物も積極的に入れてみることにした。
空はなるべく明るい表現を試みた。このあたりまでくれば、ほぼ完成の領域に入った。
ツーカンロウの細部を、まだ彫っていないことに気がつく。
資料をもとに、細かい部分を彫り、完成とした。
この書票をつくっていたら、台湾へまたいってみたくなってしまった。
台湾へは二度ほど行ったことがあるが、両方とも、木口木版画実技講習会の講師としてであった。したがって、毎日、講習会会場と、ホテルの往復のみで、観光旅行は殆どしてはいない。
今回は、手彩色も施すようにというご注文もあった。色彩は南国風に、強い色調を心がけた。
台南市を訪れたとき、佐々木さんも台南にいらっしゃっていた。佐々木さんは、大の台湾通で、数十回台湾を訪れたことがあるそうだ。
木口木版画の講習会の終了後、酒席を共にした。
台湾で、私が忘れられないのは、「夜市」だ。
台湾の街では、夜、大きな市が立つ。屋台が中心の夜市では、生活に必要なものが殆ど揃う。日中は、暑すぎて、まちなかをうろつくのも大変だ。
夜になれば、いくらか暑さもしのぎやすくなる。その時分、夜市が立つ。夜市は、人々で溢れ、活気に満ち溢れている。屋台での買い食いは、最も魅力的な夜市の楽しみ方だ。台湾料理のスナック。南国の果物等が、実に安価な価格で賞味できる。
そういえば日本でも、私の子供の頃、「夜店」というものが存在していた。週末の夜、街の繁華街に様々な屋台が立った。良く両親に連れられて出掛けたものだった。
子供の頃私は、その「夜店」で最も楽しみにしていたのが、古本店だった。仄暗いアセチレンランプの下に浮かび上がっている、古本、漫画本を手に取りページを開く、そこには、こどもを夢の世界に誘う世界が広がっていた。現在のようにテレビも、パソコンもなかった時代だ。漫画本こそ、こどもの心を夢の世界へ解き放つ、装置だったのだ。
台湾の夜は、私の心をそんな郷愁の世界に誘ってくれる。かつて、日本の何処にでも存在していた懐かしき雰囲気が漂っている。
それは台湾の人々にも共通しているようだ。私の接した台湾の人々は、本当に親切で心優しい人ばかりだった。初めて出会ったのに、ずっと以前から知っていた人のように感じられる。
私の台湾行は、仕事がらみなので、実にあわただしい滞在なのだが、充分、心癒される旅行として心に残っている。
台湾は日本から近い国だ。いつでも行くことはできるだろう。台湾のどこかの街の屋台で,暑い南国の夜風に吹かれながら、夜の更けるのも忘れお酒を飲みたいと、いつも思っている。
2009年5 月 5日 (火) カテゴリー: 木口木版画 | 個別ページ | コメント (2) | トラックバック (0)
東京池袋にある、創形美術学校での木口木版画の実習がはじまりました。
毎年、集中講議で、木口木版画の指導を、もう十年以上続けています。
創形美術学校には、木口木版画の、いわば伝統のようなものが存在していると思っています。
初めて、創形美術学校で、木口木版画の指導を行ったのは、故日和崎尊夫さんでした。日和崎さんの木口木版画作品に触発され、創形美術学校に入学されたのが、柄澤齊さんでした。
私は、創形美術学校の研究科に在学していたとき、柄澤齊さんから、木口木版画の指導をうけました。今から、三十五年ぐらい前のことでした。
さて、今年も、若い学生達と共に、木口木版画の制作が始まったのですが、木口木版版木の表面の仕上げが、いまいち不完全でしたので、講義初回は、全員で版木の削りに没頭いたしました。
木口木版画の材料。版木の、表面の加工が最も重要な下準備のひとつです。作業としては、単純ですが、根気の要る作業です。
全員で、わいわいがやがや楽しみながら、木口版木の表面の削りを行いました。
2009年4 月26日 (日) カテゴリー: 木口木版画 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
2009年4 月20日 (月) カテゴリー: 木口木版画 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
『山想譜』カレンダー 2008
八ヶ岳の、行者小屋です。1月~2月の図柄として選びましたが、取材したのは八月のことでした。
赤岳への最短距離にある行者小屋は、にぎわっていました。できれば厳冬期に訪れたい場所です。
美濃戸から行者小屋への登山道には、苔むした石の祠や、修行者の杖のようなものを立てた場所もあって、山岳信仰の名残が随所にみられました。
3月~4月 硫黄岳山荘からは、山小屋らしい山小屋という印象をうけました。
小屋の周辺には、コマクサの群生地があります。この山荘周辺からの眺望は魅力的です。
この周辺もまた、是非とも積雪期に訪れたい稜線です。
赤岳鉱泉小屋 赤岳鉱泉小屋は快適な山小屋でした。登りに疲れたからだを、温泉が癒してくれました。
訪れたのは八月でした。夜半、戸外に出ると思いの外、冷え込んでいました。
上空には、無数の星星が煌いています。こんなにも沢山の星の煌きを眺めたのは、本当に久しぶりのことでした。
小屋からは、大同心の岩峰が望めます。見る角度によって、本当に僧侶が拝んでいるような形に見えます。
赤岳鉱泉小屋から硫黄岳に登り、八ヶ岳主稜線を縦走いたしました。
今回のカレンダーは、今年の夏訪れた八ヶ岳をモチーフにえらびました。取材いたしましたのは夏でした。したがって、全ての月が、夏の山小屋周辺の図柄になりました。
中高年の年齢に達し、最近は、もっぱら山小屋を利用しての山行をたのしんでいます。
2007年11 月20日 (火) カテゴリー: 木口木版画 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
群馬県館林市にある、群馬県立館林美術館での「版画ワークショップ」は、今回で二回目となりました。前回は、板目木版画のワークショップでしたが、今回は『木口木版画で作る蔵書票』というテーマです。
館林美術館のワークショップ室は、本館と別棟になっていて、フランスの田舎町を思わせる素敵な建物になっています。
内部には、フランソワ ポンポンのアトリエが復元されていて
これがまたとても落ち着いた佇まいで、自分のアトリエにしたいぐらいの魅力ある雰囲気をかもし出しています。
『木口木版画で作る蔵書票』の作業は、贅沢にも、この趣きある工房でおこなわれました。
今回のワークショップでは事前に、木口木版画制作のテキストを作り、参加者の方々に配布しておいたので、参加者22名の殆どの方が下絵を描いてきてくださいました。そのおかげで、速やかに版木に下絵を転写。ワークショップ開始、一時間後には、皆思い思いの図案の蔵書票を彫り始めることができました。
とはいっても、始めて握るビュランに戸惑いも感じていたようでした。
しかしながら皆さん、いざ彫り始めると、見事な集中力で、不自由さをものともせず彫りの作業を進めておられました。
ところで、群馬県立館林美術館で開催されている、「都市のフランス自然のイギリス」という企画展に、英国トーマス ヴューイック、フランス ギュスタフ ドレといった作家の木口木版画が展示されています。
ワークショップでは、それら、西洋の木口木版画の鑑賞を深めて頂くため、私の所蔵している、今から百年ぐらい前、実際に英国で、書物の挿絵として使われていた、古版木を持参し、参加者の方々に、自分で摺ってもらうというプログラムも用意いたしました。
繊細な木口木版画の摺りは、なかなか思うような結果が得られず、皆さん苦労なさっていたようです。
しかしながら、摺りあげた、百年前の木口木版画の繊細で緻密な表現には、全員、感嘆の声を発しておられたようです。
初日は、充分版木の彫りも進まなかったようで、参加者全員が、ビュランの貸し出しを望まれ、各自ビュランを持ち帰って一晩、彫版に挑んで頂くこととなりました。
明日が楽しみです。
どのような版ができあがってくるのか、わくわくしてきます。
つづく
2007年10 月 8日 (月) カテゴリー: 木口木版画 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
武蔵野美術大学で木版画を専攻している学生に、木口木版画の実技を指導を始めて、早いもので今年で七年目をむかえた。
毎年、一ヶ月ほど実習を担当いている。
木口木版画の実習は、毎年同じようなスタイルで進めているが、大学の版画工房で出会う学生達との会話の中から、個々の学生の考え方や、版画への取り組み方を考慮し、指導方法を微妙に変化させていくこ とにしている。
武蔵野美術大学では、木口木版画実習の期間が約一ヶ月という、比較的長い時間、実習を継続することができるので、まとまった制作のプランを学生達に提示することが出来る。
今回の実習では、木口木版画の原点とも言うべき、書物という形式での木口木版画の概念を、意識しながら制作に励んでもらおうと考えている。
書物に使われた、古い木口木版画の作例、図版等を学生達に鑑賞してもらい、新しい制作の契機の模索に役立たせようと思っている。
したがって、木口木版画の実習の作品提出のスタイルは、本の形式を目指している。
とはいっても、一冊の本を仕立てるほどの時間は無いので、ふたつ折りした紙、つまり本に見立てれば、4ページ分になるが、そのスペースを自由に活用して、自分の世界を展開させていくように指導している。
この課題は学生に実習の期間中、数種類の作品を制作させるための、有効なきっかけとなっているようだ。
別に多作をよしとしているわけではない。実習の期間中の制作は、1点でもかまわない。
美術大学、版画専攻を選択したからには、ひとつの課題に、それぐらいの情熱を注ぎ込んで制作に励んでもらいたいものである。
二回目の講義は、木口木版画に使われている、様々なビュランの説明を試みてみようと思っている。
2007年9 月11日 (火) カテゴリー: 木口木版画 | 個別ページ | コメント (1) | トラックバック (0)
群馬県立館林美術館での『都市のフランス自然のイギリス』 18・19世紀絵画と挿絵本の世界 という展覧会が開催されます。
その関連事業として、「版画ワークショップ 木口木版画で作る蔵書票」の講師をお引き受けいたしました。
この展覧会には、木口木版画の技法を完成させたといわれている、イギリスのトーマス ヴューイックの「英国鳥類誌」という、挿絵本も出品されるようです。
私も個人的に、トーマス ヴューイックの小品を1点愛蔵しています。小さいながらも、卓越した彫版の技術が紙片から伝わってまいります。
また、今回の群馬県立館林美術館でのワークショップでは、19世紀、実際に英国で彫られ、書物のカットとして使われていた、古版木をワークショップ参加者に、自分で摺っていただくというプログラムも用意いたしております。
版木の裏面に
AFTER SKENE? DICKES.
ENG.BY GREEN.
という表記が記されています。
とても一世紀以上前のものとは思えないほどのクリアーに摺り、感動してしまいました。
かつては、平圧プレスで、活字と一緒に一枚の紙に印刷されていました。
この作品は、日本の伝統的な版画の道具、本バレンで摺っています。
2007年8 月 3日 (金) カテゴリー: 木口木版画 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
年二回発行し続けているオリジナル木口木版画挿絵本『イマジオ&ポエティカ』No.28が出来上がりました。
年二回の発行ですから、今年で十四年目を迎えたことになります。
長年にわたり、定期購読を続けてくださっている、多くの読者の方々には、本当に心から感謝もうしあげます。
本文は、オリジナル木口木版画と、詩文によって構成されています。
28号では、海底のイメージで版木をきざんでみました。
『イマジオ&ポエティカ』では、現在「光る風を求めて」というタイトルの、私の、自伝的な随想も連載しています。
今号では、私が学校を卒業し、アルバイトをしながら木口木版画を彫り続けていた時代、二十四歳の頃のことを綴っています。
卒業制作展をきっかけに、銀座のある画廊主と知り合うことになったのですが、その方が私の作品の第一番目の理解者となってくれたのでした。その方には、今でも心から感謝いたしております。
2007年7 月25日 (水) カテゴリー: 木口木版画 | 個別ページ | トラックバック (0)