油絵家、古沢岩美さんの、エッチングによる蔵書票です。滑らかなニードルの走りが、しなやかでなまめかしい女性像を表現しているようにも思います。
金属板である、銅版でこのように柔らかく人体を描くのはとても難しいことです。
銅版画家 篠原佳緒さんの、エッチングによる書票です。多分、木の葉の部分は、ソフトグラントという手法を使っていると考えられます。ディープエッヂの部分もありますし、部部的にルーレットも使っているようです。
したがってこの作品は、エッチング(間接技法、薬品等で腐食させて製版する。)だけではなく、ルーレット(直接技法、様々な道具で、直接版に傷をつける製版。)も併用しているようです。
画面上部に、色の違う文字が入っていますが、これは、一版多色摺りの技法を用いています。銅凹版摺りの場合、この一版多色摺りの手法はかなり効果的で、複雑な色合いの摺りが可能です。この版画の摺りは、実は私が行いました。
日本を代表する、女性版画家の、小林ドンゲさんの作品です。
この銅版画は、エッチングではありません。エングレーヴィングという、ヨーロッパで考案された、彫刻刀で直接銅版に線を刻んでいく技法で作られています。いわゆる、直刻法です。 小林ドンゲさんには、一度お会いしたことがございます。エングレーヴィングをする前に、薄い塩化第二鉄で腐食し、微かな腐食の線を目安にビュランで彫っていくそうです。
ちなみに、木口木版画も、ビュランという彫刻刀で彫っていきます。銅版は普通凹版摺りですが、木口木版画は凸版摺りが一般的です。
松原邦光さんの型染めによる書票です。型染めについては、詳しい事は分かりませんが、基本四版種という分類法では、孔版にあたります。シルクスクリーン仲間になるでしょう。
版は型紙です。この手法では、森義利さんの作品が、国際的にも評価されているようです。
イタリアの書店で買い求めた書票です。ザイログラフという表記が読み取れましたので、木版画でしょう。木版画といっても、これは、多分木口木版画ではないだろうかと考えられます。
この作品も一版多色摺りの技法を用いています。緑と青のインクを使って、ローラーグラデーションで版にインクを盛っています。
印刷機はおそらく、平圧プレスを使っていることでしょう。欧米では、バレンという重宝な道具がありませんから。しかしながら、金属凸版という見方もできます。一度、木口木版に彫って摺った図柄を、亜鉛凸版に起こせば、同じ版画沢山作れます。大量印刷はこの方法が用いられています。良く、オリジナルの木口木版画と称されている版画の中には、亜鉛凸版によるものが多数みうけられます。金属凸版によるか、直接木口木版画からすられた物かは、よくよく観察しても分かりません。古い木口木版画だと称されている印刷物には、気をつけてください。
私の最も気に入っている、書票。小版画です。作者は清宮彬さん、木版画家 清宮質文さんのお父さんにあたります。
この作品は、板目木版画水性凸版摺りによるものです。色彩が実にしっとりとしていて落ち着いています。おそらく、日本の伝統的な伝承木版の摺りに用いている、顔料系の絵の具を作者ご自身で調合し、使っていたのでしょう。
この作品は、小さな手作りの額に入れて、アトリエの壁に架けてあります。
この小版画を眺めていると、本当に、こころが休まります。蔵書票が『紙の宝石』と呼ばれているゆえんが、良く理解できる素晴らしい作品です。
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