今年の版画協会展には、昨年夏、取材に出かけた剱岳の三ノ窓雪渓を出品いたしました。
この景観は、剱沢を下り、真砂沢を経て仙人新道を一時間ばかり登った地点から見た素晴らしい山岳風景です。
仙人新道の登りは、ぎらぎら照りつける夏の強い日差しの中、汗まみれになりながらの苦しい登高行となりました。しかしながら、仙人新道から望む三ノ窓雪渓は圧巻でした。二十歳の頃は、この雪渓を、三つ道具をぶらさげ、駈けずりまわっていました。遠い昔の記憶が鮮やかに蘇ってきました。
この尾根を登りきると、剣岳の名物山小屋、仙人池ヒュッテに至ります。仙人池からの裏剱も、剱岳八ッ峰の峻険な岩尾根が十分堪能できる名所です。
このときの取材山行では、仙人谷を下り仙人温泉に一泊。阿曽原経由で欅平へくだりました。その時の記録は、ブログに詳しく書きこんであります。
さて今回は『剱岳 三ノ窓雪渓』の出来上がるまでの課程を、木口木版画の部分のみ公開してみようとおもいます。
この作品は、木口木版画と板目木版画の併用です。
版木は黄楊材です。サンドペーパーでみがきました。最終的には、八百番で終了。
この版画は、稜線から流れ落ちるような、迫力ある雪渓、雪の塊が主役ですから、その部分から彫り始めました。
夏の雪は、少し汚れた部分もあります。真っ白い部分と、グレートーンの部分を、注意深く彫ることがポイントとなります。
雪渓の調子を生かしながら、岩峰の彫りに取り掛かります。
空の部分は、後で板目木版画で色を入れるため、この段階でさらっておきました。
チンネ、チンネジャンダルム、チンネ左稜線懐かしい剱岳八ッ峰の岩場での思い出をかみ締めながらの彫版は、机上でのロッククライミングを彷彿とさせてくれます。ハーケンやカラビナ、ロックハンマーの変わりに、ビュラン、砥石、彫刻刀が装備となっています。
実際のロッククライミングでは、自分で登るべきルートを自分で探す、ルートファインディングの技術が重要なポイントになります。版を彫り進めていくことにも、私は、このルートファインディングの概念を取り入れることにしています。
このような行程を経て完成したのが、今回の出品作『剱岳 三ノ窓雪渓』です。この作品は、私の個人的な版画工房「ボックスウッド クリエーション」が制作し、定期購読者向けに頒布している『山想譜』第四号に収録されています。
『山想譜』はこのほかに、オリジナル木口木版画がもう1点添付されています。また山の版画に対応した詩文。その号で制作した山の版画に寄せる、私の随想も挿入されています。
ところで、今年版画協会では、Prints Tokyo2007という公募展も企画されています。この公募展で準大賞を受賞されたのは、小曽根正利さんです。小曽根さんは、東海大学での私の先輩でした。一緒に大学の版画室で、版画を制作していた頃のことがおもいだされます。小曽根さん、本当にもおめでとうございます。学生時代、卒業してからも、小曽根先輩にはお世話になりました。この場をお借りして御礼もうしあげます。