十月の連休、思い立って八ヶ岳を見に行こうと思った。夜、車で行く計画を立てたので、運転交換要員として、倅を誘ってみた。一年前免許をとった倅は、どうも車を乗り回すのが趣味となっているようだ、いちもにも無く了解してくれた。倅とはこれまで、数回山に登ったことがある。一回目は北アルプスの立山。二回目は槍ヶ岳に登った。小学五年のころだったろう。親父の趣味に引きずりこもうと考えたのが、それ以後山登りにはあまり関心を示してはくれなくなった。
真夜中、車を飛ばすのはひさしぶりだ。ガソリンが高騰している時期だったので、高速は使わず、甲州街道を走った。高尾山を過ぎたあたりから、休日前夜ということもあって、いわゆるローリング族に遭遇した。峠道を車体の低い車で、ドリフトしながら走り抜ける車とすれ違うときは肝を冷やす思いだ。山登りよりもはるかに危険なように感じられた。
目的地は一応、北八ヶ岳に位置する,稲子湯を目指した。車で、できるだけ山懐に入りなるべく歩かないですむようにした。稲子湯の登山道入り口には明け方到着。車を止め歩き始めた。今回の取材も、山頂は目指さない。
稲子湯からしらびそ小屋まで登り、天気を見て中山峠あたりまで登ることができればと考えていた。かっこいい言い方をすれば、積雪期登山の偵察といった具合だ。冬山登山からずいぶん遠ざかっていたが雪の時期でも、しらびそ小屋までであれば何とかいけそうにおもった。
しばらく林道を歩き、谷川沿いの登山道に入る。何度か谷川を渡り、うっそうとした樹林地帯のなかを進む。積雪期には多分凍っていることだろう。また樹林地帯の中の登山道は場所によっては、ラッセルも必要かもしれない。しかしこのルートは積雪期でも、結構登山者が入る地域なので、ふみ後を辿ることになるだろう。積雪期のルートを知らせるテープや、目印の赤い布も目に付く。ま、それは天気の良いときの話で、吹雪にでもなったらやはり危険だ。吹雪の中のルートファインディングには注意しなければならない。
登山道にはかつて、伐採した木材を運搬したトロッコの軌道が敷かれている。古いレールの上を歩くわけだ。
樹林地帯の中の歩行は、時期的に少しひんやりとした空気を感じたが、気分は良い。まさに森林浴の爽快さを味わうことができる。森の静けさの中の登山は、北八ヶ岳の魅力ともいえる。 ゆっくり、三時間ぐらいののぼりで、しらびそ小屋に到着。
空間を醸し出している。是非とも積雪期に訪れてみたい気分にさせられる。この山小屋が 冬でも営業しているので、何とか私のような登山者でも登ってこれるのである。
しらびそ小屋の前には、みどり池というかわいらしい池があり、天候がよければ森の向こうに 、天狗岳を望むことができる。私たちが昇った日は、風も強く天狗岳の山頂は雲に隠れていた。
ここからの天狗岳の景観も、是非『山想譜』で取り上げてみたいと思っている。
天候も芳しくなく、装備も不完全だったため中山峠には登らず 、そこから来た道を引き返すことにした。本当に雪が積もった時期に訪れてみたいものだ。
駐車場までは一時間半ぐらいで下った。帰路は再び甲州街道を走ったが、山頂に少し雪の積もった甲斐駒ケ岳の悠然とした山容を望むことができた。街道からは他にも、南アルプスの山並み、八ヶ岳、富士山がはっきりと望めた。はるか遠くには、みずがき山の、白い山肌さえ見ることができた。
帰りは疲れもあって、高速道路を利用することにした。