タージマハールのある街アグラでぶらぶらしていて、うっかりある街を通り過ぎてしまったことを思い出した。通り越してしまった街とは,古都マトゥーラという街だ。
マトゥーラはインドの、仏像彫刻の重要な生産地でもあった。仏像が始めて作られたのは、パキスタンだといわれている。その後紀元1~2世紀ごろ、ガンダーラ仏が生まれたらしい。
マトゥーラでは歴史的にみれば、ガンダーラとほぼ同時期に仏像の制作がはじめられたようだ。仏像関連の書物によれば 、仏像の制作はマトゥーラの方が少し遅いということになっている。しかしながら興味深いのは、マトゥーラ仏はガンダーラ仏の影響を殆ど受ずに制作始められたということだ。。したがってマトゥーラ仏は、インド仏像彫刻の原点とも言うべき特徴が顕著に現れている。
インドの仏像の制作地としては、もうひとつサールナーとも忘れることはできない。サールナートで仏像が作られるようになったのは、紀元5世紀頃からだといわれている。マトゥーラ仏とサールナーと仏は、同じ仏像というテーマで制作、、されているが、作られた時代や地域性、素材となる石などによって相違が認められる。
仏教美術に興味を持ち学んでいると、インドの仏教美術に行き着く。特に仏像彫刻に的を絞って調べていくと、古のインドに存在していた、二大仏像の制作発祥の地にたどり着く。それがマトゥーラとサールナートとい古都になるのだ。
サールナーとへは一回目のインド旅行では行ってはいない。二度目のインド放浪の際訪れることになる。
アグラからマトゥーラまでは数十キロの距離だ。どうせ暇をもてあましている身、マトゥーラまで戻ることにした。
マトゥーラは思っていたより小さな、しかし趣のある古都だ。早速マトゥーラ仏の鑑賞をはじめようと試みる。マトゥーラ考古学博物館に足を運んだ。マトゥ-ラ仏は、少し赤みがかった、硬そうな石に刻まれている。どっしりとして、どこか威厳を感じさせるような造形性を持っているように感じた。女性像は、それに対して結構ボリュームを感じさせ、かなり肉感的を表現の彫像もあった。私は個人的には、大地にどっしりと足を下ろしている、直立したマトゥーラ仏が好みである。仏陀の威厳、尊厳をたたえるどっしりとした存在感には圧倒されてします。
サールナート仏は、肌理の細かいピンクがかった、人肌を予感させるような砂岩に彫られている。サールナートは、仏陀が悟りを開いた聖地としても有名だ。サールナート仏は、穏やかで、やわらかい表情を持った仏像が多いように思う。サールナートで仏像が制作されたのは五世紀頃かららしいが、仏像彫刻としての完成度には感心させられる。仏陀の限りない慈悲の心を、そのお顔の表現から見て取れる。仏像を芸術品として鑑賞していた私は、サールナート仏に対峙して初めて、仏像とは鑑賞の対象としてではなく、祈りの、信仰のために作られたのだということを実感した。この感覚は、図版やイラストからでは体感できない。
マトゥーラ仏の堂々とした存在感は、現代の石の彫刻にも引き継がれているような芸術性を私は感じている。
話が仏像彫刻に行ってしまったが、マトゥーラでの数日は、そんなことを考えながら過ごした。さてこれから、だだっ広いインド亜大陸どっちへ行こうか。地図を広げあれこれ検討してみた。
カジュラホという地名に目が留まった。カジュラホはエロチックな男女交合像の石造群で有名な地である。またまた過酷な長距離バスの旅が始まる。風まかせの旅、覚悟を決めてチケットを購入した。(今回は手持ちの資料不足のため、図像は 挿入できません。)