二日目を迎えて、版木の彫り終わり、いよいよ試し摺りの段階に進んだ方もいるようです。
今回の版画ワークショップは時間の都合上、木口木版画の特徴である、緻密で繊細な彫りを目標とする彫りはのぞめませんでした。したがって、摺りにはカラーインクの摺りを積極的に取り入れることにし、色彩の魅力を参加者の方に充分体験して頂こうという方針を選択したのでした。
ワークショップの当日は、とても爽やかな、秋晴れの好天に恵まれました。そんな空気を表現したいと考え、パステルカラー調のインクを調合してみました。
摺りの段階に入ると、参加者の方々の目の輝きがましてきます。 版木にローラーでインクを盛り、雁皮紙に摺るという工程は単純なようでも、版木によって摺りの効果が変化します。
インクの硬さ、バレンの力の入れ具合等、様々な要素を考慮して、摺りを体験していただきました。
今回のワークショップには、若き木口木版画作家、創形美術学校の副手を勤めている、長嶋一孝君の力を借りることができました。
長嶋君の優しいまなざしが、受講生の摺りの様子をみまもっています。
長嶋君は、参考作品として、彼自身が、デューラーの版画を模刻した版木を持参してきてくれました。
なかなか見事な模刻作品です。この作品は受講者の方々に大絶賛されました。
版画制作の基本として、模刻は技術を習得するための有効な手段です。私も学生時代、模写、模刻を行ったものでした。
爽やかな色調の木口木版画の出現に、受講生一同から拍手喝采が巻き起こりました。
今回のワークショップでは、カラーインクを用いた、オブジェクトプリント。ベニヤ板を使った板目木版との併用。スクラッチを用いたモノタイプ等、様々な現代版画の手法を積極的に取り入れてみました。
見慣れているモノクロームの木口木版画とは一味違った、色彩木口木版画の魅力も、受講生の方々に体験して頂けたように思っています。
はがきを用意されて、オリジナルのポストカードを摺っていた方もいらっしゃったようでした。
時間があれば、手彩色も皆さんにすすめてみました。この頃になると、美術館の学芸員の方々、受講生の皆さん、講師三者の間には、お互いに打ち解けた、和気藹々としたが生まれ、充実した満ち足りた雰囲気に工房が包まれていきました。
かくして、参加者22名全員の作品が出揃い、作品の鑑賞タイムとなりました。木口木版画ということで始まったワークショップでしたが、木口木版画以外の手法も随所に見られる、バラエティーにあふれた素晴らしい作品の出現に感動いたしました。
栃木県立美術館の学芸員の方も見学にいらっしゃってくれて、いつの間にか、展示のお手伝いまでしてくださいました。
上毛新聞の記者の方も取材にお見えになられ、さながら展覧会会場のような活気も感じられ、本当に嬉しくなってしまいました。
ところで、今回のワークショップでは、受講生方々の完成した作品を収める、小冊子状のタトウを用意してみました。私が個人的に刊行している版画入りの冊子を少し簡略した形式のものですが、表紙には参加者が 、ご自身で摺られた古版木からの木口木版画を添付いたしました。
表紙を開くと、中にそれぞれの方の作品が収められているというわけです。もう少し時間があれば、版画の反対側の空白のページに文章を入れれば、立派な版画文集にしあがります。
参加者全員が、このワークショップ参加記念の冊子を持ち帰ることができました。
楽しくも充実した濃密な二日間は、あっという間に過ぎ去ったように思います。最後に、このような素晴らしいワークショップにたずさわる機会を与えてくださった、群馬県立近代美術館の関係者の方々に深く感謝いたします。また、様々な道具、材料提供してくださいました、東京 池袋 創形美術学校のご好意にも深く御礼もうしあげます。
さらに、このワークショップにご参加いただきました、受講生の方々の木口木版画に取り組む姿勢からは、深く大きな感動をいただきました。本当に有難うございました。これからも木口木版画という版種に引き続き関心を持たれ、各自の表現の手法としての木口木版画のあり方を模索して行って頂ければ幸いに存じます。また何処かでお目にかかれることを、楽しみにしています。
栗田政裕
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