さて、今回の創形美術学校での木口木版画の実習の期間中、私には試してみたいことがありました。それは、最近試みている、オブジェクト プリントの作品を、写真製版でシルクスクリーンの版に起こしてみようという願望でした。
幸いなことに、創形美術学校研究科に在籍している、橋本恵美子さんはシルクスクリーンを専攻しているので相談してみました。橋本さんは、かつて木口木版画の実習に参加されたことがあります。
左の「羽」の版画は、寿亀山 弘経寺の彫り物、鳳凰の一部です。フロッタージュという手法で実物から写し取ったものです。
この作品を、写真製版で版におこしてみまし
先ずシルクを張った木枠に、乳剤を塗布します。
次に、複数の「羽」のコピーから、新たなイメージを考え、コラージュを試みながら再構成していきます。
四枚の羽のコピーを構成し、左のようなデザインを考えてみました。
その、コラージュした作品が原稿となります。
原稿に油を塗って、透明度を持たせます。こうすると、コピーが、フィルム状態に近づくのです。
その原稿を、巨大なプリントゴッコのような感光機に載せます。その上にシルクの版を乗せ感光させるわけです。
感光が終了いたしました。
感光が終了した版を水洗いします。そうすると、黒い絵の部分の乳剤が洗い流され、シルクの写真製版が完了いたします。
この段階までは、全て橋本さんの助言によってすすめられています。
私にとって、創形美術学校の素晴らしいところは、このように学生達から、私の知らない版画の手法を教えてもらえるところにあります。
一応、指導者として学生に木口木版画の技術を教えていますが、学生達から教えられることも、実は沢山あるのです。
創形美術学校は、少人数の小さな学校です。同じ教室に、様々な版種に挑む学生が同居しています。木版画を彫っている隣の机で、銅版を刻んでいる学生もいます。それぞれの学生が、思い思いの手法で制作に励んでいます。私はそのような状況が、とても刺激的で、素敵なことだと考えています。同じ工房で、様々な手法で、お互いに切磋琢磨している学生達の顔はみな輝いて見えます。
ところで、今回のシルクの製版は、私にとって初体験のことですが、創形美術学校には、シルクスクリーン版画の伝統のようなものが存在しているようにも思います。かつて創形美術学校には、松本晃先生という現代美術家がご指導にこられていました。
松本先生は始めは、伝承木版の摺り師をなさっていたそうです。いわば、日本の伝統的な職人の世界に身をおかれていたようです。
いつの頃からか、現代版画の旗手とも言えるべき斬新な表現でご活躍されるようになりました。三十年前の、若き創形美術学校の学生にとって、松本先生は羨望の的でした。松本先生は、板目木版はもとより、シルクスクリーン、エッチング、木口木版画といった多種多用な版画の技術を用いて、画期的な版表現を開拓されてきた方でした。
私は、個人的に松本先生の、シルクスクリーンの作品がとても好きでした。そんな思いもあって、今回、シルクスクリーンの製版に挑戦したのかもしれません。
松本先生のもっと詳しい情報は、私よりも、現在創形美術学校で教鞭をとられている、シルクスクリーンの小山愛人先生の方が詳しいでしょう。
今回は、木口木版画と関係の無い、シルクスクリーンの話になってしまいましたが、逆に、木口木版画を教えに行っていながらも、別の学年の学生に、他の版種について助言を求められ、学生の作った版を摺ってみたりしています。これがまた私にとっての、格好のリフレッシュとなっているのです。