東京 池袋にある創形美術学校で、木口木版画の実習をおこなっています。
創形美術学校は私の母校でもあります。私が在籍していたのは今から三十年以上も前のことで、その頃、創形美術学校は東京 国立市にありました。
二十才代に版画家を志した私は、独自の版画専門の教育コースが設けられていた、創形美術学校に入学したのでした。
その創形美術学校で、初めて木口木版画という版種に出会い、その時から、今日に至るまで、木口木版画を中心に制作、発表を続けてきたわけです。
木口木版画の実習は毎年、版画を表現手段として専攻した学生達に、集中講義の形式で行っているものです。
今年の創形美術学校での、木口木版画の実習の概要をご紹介いたします。
木口木版画を制作するためには、木口木版画の版木と、ビュランという銅版画のエングレーヴィングに使用する彫刻刀を使います。
このビュランという彫刻刀がうまく研げないと、木口木版画を彫ることは出来ません。
先ずは電動砥石で、学生達に、ビュランの研ぎ方をマスターしてもらいます。
本来は、油砥石で研ぐものですが、人数の多い学校等での指導には、電動砥石を使用しています。
ビュランが砥ぎあがったら、早速ためし彫り。今回は、椿の版木をつかいました。左の写真、彫っているのは椿の版木です。画面右に見えているのは、本番で彫ってもらう黄楊の版木です。昨今では、良質の黄楊材の版木は入手しにくくなっています。創形美術学校での木口木版画の実習では、黄楊の版木の入手方法。版木への加工の仕方も指導しています。
椿、黄楊の版木の彫り味の違いを体験してもらうこともねらいとなっています。
版木によって彫り味が違ってくるということは、紙に摺ったとき、版木の種類によって微妙に摺りのマチエールも違ってくるということです。
版木の彫りが終了したら、早速摺ってみましょう。リトグラフの硬めのインク、凹版用のやわらかめのインクを混合して、木口木版画のインクは作るのですが、現在、固めのインクが手に入らなくなってしまいました。今回は、リトの製版インクのみで摺ってみましたが、やわらかすぎて、なかなか扱いにくいと思いました。
固めのインクを、私個人も捜し求めているというのが現状です。
バレンは十六コ、紙は雁皮紙を使いました。
版木にゴムローラーで、慎重にインクを盛っていきます。インクは、多からず、少なからずというのがポイントですが、これは経験してもらうしかありません。
今回も、私が持っている、十九世紀英国で彫られ、実際に書物の挿絵として使われていた、古版木を学生達に各自摺ってもらいました。
十九世紀の英国の彫師の技は、見事なものです。
欧州では、平圧プレスで印刷されていますが、これは、バレンで摺ったものです。
第一回目の実習では、木口木版画の概要を学生達に理解してもらうことを目的にしています。