木口木版画用の黄楊材の版木を、サンドペーパーで削っているところです。No.150~No.800番ぐらいまでで仕上げます。
版木の状態にもよりますが、No.150番ぐらいの荒めのサンドペーパーで、版木の表面を出来るだけ水平に削ることがポイントとなります。
版木の削りが終わったら、版木に墨汁をぬります。版木全体を黒く染めるのですが、この版木の処理は日本独特の手法かも知れません。
木口木版画の生まれたヨーロッパでは、木口木版画の版木に、直接ペン等で描写して彫り始めていたようです。その場合、版木は黒ではなく、白で染めていたようです。この場合、彫版には、かなりの時間を要します。
版木の準備が終わったら、ビュランの砥ぎの仕上げに取り掛かりましょう。ビュランの砥ぎは結構難しいので、はっきり言えば、ビュラン一本をつぶしてしまうぐらいの覚悟で、挑んでください。
インディアン オイルストーン、アルカンサス オイルストーン等、油砥石を使うのが理想的ですが、合成の水砥石でも充分です。ちなみに、私は学生時代、卒業してからも、油砥石が購入できず、安価な合成砥石をつかっていました。砥石は表面を出来るだけ平らにして使い ます。
いよいよ彫りに取り掛かりましょう。様々な種類のビュラン、彫刻刀を使ってみましょう。今回の実習では、下絵をカーボン紙で版木に転写する方法。直接鉛筆で版木にイメージを描画し、彫り進めて行くという二つの方法の中から各学生に、自分に適した手法を選択していただきました。
木口木版画の制作には、版木、ビュラン、砥石この三点が必要不可欠な材料です。この三点セットがあれば、いつでも何処でも作業が出来ます。
私は、一年あまりの欧州での滞在中、この三点セットを何処へ行くときにも携えていました。ロンドンの安宿でも木口木版画を彫っていました。また、トルコ、イスタンブールでもホテルの机を使って木口木版画を制作していました。
一年間暮らすことになったイタリア フィレンツェに到着してまもなく、留学先の学校長の依頼で木口木版画のエディションを起こし始めたのも、安ホテルのライティングデスクの上から始まりました。
三十年前、木口木版画に出会ったその日から、秘密の話ですが、私は学校に行かなくなってしまいました。通学にかかる時間が、とてももったいなく思えたからです。通学に使う時間も、木口木版画を彫っていたいと考えたからでした。
いよいよ創形美術学校での、木口木版画実習も終盤に入りました。工房にも活気があふれてきました。学生達の木口木版画の世界が、どのように展開していくかが楽しみです。