茨城県取手市では毎年、アートプロジェクトという現代美術の様々な催しが企画されています。
市民と行政、東京芸術大学が一体となって推し進めている「アートプロジェクト」は今や、取手市のかけがえのない文化事業となっているようです。今年は、取手市戸頭の「旧戸頭終末処理場」を舞台に、若きアーティスト達の、興味深い様々な取り組みが展開されています。
ゲスト プロデューサーが、ヤノべ ケンジさんということで、早速観に行ってまいりました。実は、取手市戸頭には、私の仕事場があります。会場となる旧戸頭終末処理場の前は、毎日通っているのです。行ってみて、本当に面白く、感動いたしました。写真を撮って、私的なブログで公開してもよろしいかどうか、関係者にお尋ねしたところ、快諾を得ることができました。多くの方々に、足を運んで頂きたく、公開いたします。この展覧会は映像を見ているだけでは、本然の姿は捕らえられないでしょう。是非とも現地を訪れていただきたく思います。
会場の外には、様々な素材を使用した、オブジェが設置されています。遊園地のような、はたまた海賊船のような、いろいろなストーリィを連想させてくれます。子供の頃、誰もが抱いていたであろう「隠れ家」への憧れを呼び覚ます仕掛けを感じ、嬉しくなりました。
続いて、処理場の内部へと足を踏み入れてみましょう。少しどきどきしてきます。
プレハブ作りのような建物の内部には、鉄のパイプ、狭い通路があって、少し近未来的な雰囲気も醸し出されています。
会場を訪れた時間が黄昏時だったため、裸電球の明かりが妙に心にしみ、郷愁さえ感じられました。そこからは、終末処理場の核心部とも言うべき、汚水がためられていたと思われるコンクリートの巨大な槽へと降りていきます。
いくつも存在している汚水層の内部が、なんともいえない空間を提供してくれているようです。ひとつひとつの槽が、独立した、アーティストの発表の場となっています。
それぞれの槽は、左写真のような扉で仕切られていたようです。背の低い出入り口をくぐり移動していきます。別の空間へ移動するために、背をかがめて入るという行為は、やがて訪れるであろう、異空間との出会いに心がときめきます。
様々な、いわば地下室のような空間をめぐる旅は子供の頃、危険を顧みず興味をそそられた、洞窟探検を実行しているような、わくわくした気分にさせられました。私の生まれ育った町には、戦時中の防空壕が公園の崖下にあり、蝋燭や、懐中電灯を携え、もぐりこんで遊んでいました。
トンネルの内部は、実はタイムマシーンとして機能している扉をくぐり抜けることによって、熱帯性の植物が繁茂する太古の原始世界から、一挙に電飾きらめく、近未来空間へと私たちをいざなってくれます。時空を越えた、旅の予感が彷彿としてきます。まだ見ぬ世界の具現化への欲求が高まります。まさにポエジーが、この会場全体を包みこんでいるようです。
ところで、ヤノべ ケンジさんの作品を始めてみたのは、水戸芸術館でのことでした。このときの出品作もまた素晴らしく、感激したのを思いだしています。会場に鉄路を引き込み、その上に球形の機関車のような乗り物が置かれていました。走っていたかどうかはわすれましたが、本当に走り出すような現実感がありました。そこでも私は、写真の撮影をお願いして、シャッターをきっていました。線路際で、作業をしていたのが、ヤノべさんだったように思います。その時の展示からも、私は言い知れぬ懐かしさ、郷愁、子供の頃のわくわくするような遊び場に出くわした時ような気分がこみ上げてきて、興奮を感じぜずにはいられなかったのです。
その時見た球体の機関車のような物体は、これも毎日眺めています。常磐線、金町と亀有の間、上野に向かって右側の車窓を見ていると、煉瓦作りの倉庫が二棟あって、そこから少し離れた空き地にその赤茶けた鉄の球体が二本の足を生やして、うずくまるように存在しています。その周辺は、多分かつては工場があった場所だと記憶しています。ずいぶん昔ですが、お化け煙突というのがこのあたりにあって、列車からその煙突を見ていると、角度によって、二本に見えたり、三本に見えたりしていました。子供の頃、常磐線に乗るたびに、このお化け煙突が見えると上野駅が近づきつつあると思ったものでした。
話が、私的な思い出のことになってしまいましたが、旧戸頭終末処理場の展示は、それを見た人それぞれに、様々な物語の展開を促してくれることでしょう。